交通事故で咀嚼(そしゃく)障害が残った場合の慰謝料請求について

この記事のポイント

・交通事故による咀嚼障害は慰謝料などを請求できる可能性がある
・咀嚼機能の後遺障害等級は1~12級で、症状により細かく定められている
・後遺障害認定には必要な検査を受け、後遺障害診断書に必要事項をもれなく記載してもらうことが重要

交通事故で顔面を強打するなどにより、食べ物がうまく噛めなくなるなど、咀嚼(そしゃく)機能に支障が生じることがあります。

この場合、後遺障害等級の認定を受けると、治療費などに加えて、後遺症慰謝料や後遺障害逸失利益を請求できるようになります。
この記事では、

  • 後遺障害とは
  • 咀嚼障害とは
  • 咀嚼の機能障害の後遺障害等級と認定基準
  • 咀嚼の機能障害の慰謝料と後遺障害逸失利益
  • 咀嚼機能に障害が残ると診断された場合の対処法

について、弁護士が解説します。

後遺障害とは

交通事故でケガを負った場合、治療してもこれ以上回復できない状態で症状が残ることがあります。これを「後遺症」といいます。
「後遺障害」とは、このように交通事故で負った後遺症のうち、自賠責保険の基準に基づき、所定の機関(損害保険料率算出機構など)により障害を認定されたものをいいます。

後遺障害は1~14級(および要介護1級・2級)の等級に分かれており、1級の症状が最も重く、症状が軽くなるに従って2級、3級……と等級が下がっていきます。
各等級で、眼・耳・四肢・精神・臓器などの部位、障害の系列などに応じた障害の認定基準(各号)が定められています。

参考:後遺障害等級表|国土交通省

後遺障害が認定されると、被害者は加害者に対し、治療費などに加え、後遺症慰謝料や後遺障害逸失利益(=後遺障害により得られなくなった・または減少した将来の収入)も請求できるようになります。

交通事故の後遺障害「咀嚼(そしゃく)障害」とは?

咀嚼(そしゃく)障害は、交通事故の後遺障害のうち、口の後遺障害にあたるもののひとつです。
口の後遺障害には次の3つがあります。

  1. 咀嚼や言語の機能に障害が残る
  2. 味覚に障害が残る
  3. 歯牙の障害(=歯が折れるなどして補てつを加えたもの)

交通事故で顔や顔の周辺を打った場合などに、かみ合わせや口の開閉に影響が出ることがあります。
咀嚼障害とは、これにより食べ物を噛み砕く機能(=咀嚼機能)に障害が残ることをいいます。
なお、噛み砕いた食べ物を飲み込む機能(=嚥下機能)の障害は、咀嚼機能に準じて評価されます。

咀嚼(そしゃく)の機能障害の等級と認定基準

咀嚼機能の後遺障害等級は、言語機能(語音の発音機能)に関する障害の等級とともに定められています。

(1)咀嚼(そしゃく)の機能障害で該当する障害等級

自動車損害賠償保障法施行令(自賠責施行令)別表第二によると、咀嚼(及び言語)機能に関する障害の等級は次のとおりです。

【咀嚼・言語の機能障害】

該当する等級認定基準
1級2号咀嚼及び言語の機能を廃したもの
⇒具体的には
1.流動食以外は食べられない状態
2.4種の語音(※)のうち、3種以上の発音ができなくなってしまった状態
(※)4種の語音…口唇音(ま行音など)、歯舌音(な行音など)、口蓋音(か行音など)、喉頭音(は行音)をいいます。
1級2号は、上記1、2の両方に当てはまる場合に該当します。
3級2号咀嚼又は言語の機能を廃したもの
⇒具体的には
1.流動食以外は食べられない状態
2.4種の語音のうち、3種以上の発音ができなくなってしまった状態
3級2号は、上記1、2のいずれか一方にあてはまる場合に該当します。
4級2号咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
⇒具体的には
1.粥食またはこれと同様の食事以外ができない状態
2.4種の語音のうち2種の発音が不能のもの、または綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができないこと
4級2号は、上記1、2の両方にあてはまる場合に該当します。
6級2号咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
⇒具体的には
1.粥食またはこれと同様の食事以外ができない状態
2.4種の語音のうち2種の発音が不能のもの、または綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができないこと
6級2号は、上記1、2のいずれか一方にあてはまる場合に該当します。
9級6号咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
⇒具体的には
1.固形食物の中に咀嚼ができないものがあること、または咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できること(たとえば、ご飯や煮魚、ハムなどは咀嚼することはできるが、たくあんやらっきょう、ピーナッツなど、ある程度の固さのものを十分に咀嚼できない場合がこれにあたります)
2.4種の語音のうち1種の発音が不能のもの
9級6号は、上記1、2の両方にあてはまる場合に該当します。
10級3号咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
⇒具体的には
1.固形食物の中に咀嚼ができないものがあること、または咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できること(たとえば、ご飯や煮魚、ハムなどは咀嚼することはできるが、たくあんやらっきょう、ピーナッツなど、ある程度の固さのものを十分に咀嚼できない場合がこれにあたります)
2.4種の語音のうち1種の発音が不能のもの
10級3号は、上記1、2のいずれか一方にあてまる場合に該当します。
12級相当咀嚼に相当時間を要する場合
開口障害等を原因として、咀嚼に相当時間を要する場合をいいます。

なお、歯牙障害が原因となっている咀嚼障害については、歯牙障害と咀嚼障害の高い方の等級で評価します。

(参考)嚥下の機能障害は、咀嚼の機能障害に準じて次のような等級になります。
【嚥下の機能障害】

3級相当嚥下機能を廃したもの
⇒具体的には
流動食以外は食べられない(飲み込めない)状態をいいます。
6級相当嚥下機能に著しい障害を残すもの
⇒具体的には
粥食またはこれと同様の食事以外はできない状態をいいます。
10級相当嚥下機能に障害を残すもの
⇒具体的には
固形食物の中に嚥下ができないものがあること、または嚥下が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できること(たとえば、ご飯や煮魚、ハムなどは嚥下できるが、たくあんやらっきょう、ピーナッツなど、ある程度の固さのものを十分に嚥下できない場合がこれにあたります)

(2)咀嚼(そしゃく)機能の後遺障害の等級認定に必要なこと

咀嚼の機能障害が認定される要件として、

  1. 不正咬合や顎関節の客観的な障害がある
  2. 固形食物の中に咀嚼が十分にできないものがある
  3. そのことが医学的に確認できる

ことが挙げられます。
そのためには、「そしゃく状況報告表」を作成し、主治医に咀嚼機能障害の症状を訴えて、咀嚼機能障害の残存を認める後遺障害診断書を作成してもらうことが必要です。

(2-1)他覚的検査について

咀嚼機能障害は、不正咬合や顎関節の変形や麻痺などの客観的な機能障害が必要ですので、その存在を立証する頭部のレントゲン画像やCT画像が必要になります。

(2-2)診断書や検査結果の書類などを準備する

医師から咀嚼の機能障害について診断を受けたら、

  • 後遺障害診断書
  • X線やCT、MRIの画像検査の結果

を発行してもらいます。

また、被害者自身か家族や介護士により、固形物がどの程度食べられるか、食事にかかる時間などを記載した

  • そしゃく状況報告表

を作成します。

これらを、加害者が加入する自賠責保険会社に提出して等級認定の申請をします。

【後遺障害診断書】

【そしゃく状況報告表】

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咀嚼(そしゃく)の機能障害で請求できる後遺症慰謝料と後遺障害逸失利益

次に、咀嚼機能障害で請求できる後遺症慰謝料と後遺障害逸失利益について見ていきましょう。

(1)後遺症慰謝料

後遺障害が残ってしまったことの精神的苦痛に対する慰謝料を後遺症慰謝料といいます。
後遺症慰謝料を算定する基準には次の3つがあります。

  • 自賠責の基準…自動車損害賠償保障法(自賠法)施行令で定められた、必要最低限の賠償基準
  • 任意保険の基準…各保険会社が独自に定めた賠償基準
  • 弁護士の基準…これまでの裁判所の判断の積み重ねにより認められてきた賠償額を目安として基準化したもので、通常、弁護士が交渉や裁判をするときに使う基準(裁判所基準ともいいます)

咀嚼機能についての後遺障害が認定された場合の後遺症慰謝料(目安)について、自賠責の基準と弁護士の基準を比較したのが次の表です(任意保険の基準は非公表のため掲載しておりません)。

【咀嚼の機能障害による慰謝料】

後遺障害等級自賠責の基準(※)弁護士の基準
1級1150万円2800万円
3級861万円1990万円
4級737万円1670万円
6級512万円1180万円
9級249万円690万円
10級190万円550万円
12級94万円290万円

(※)2020年4月1日以降に起きた事故の場合。

上でご紹介した3つの算定基準を金額の大きい順に並べると、一般的に

弁護士の基準>任意保険の基準>自賠責の基準

となります。

【3つの基準による一般的な慰謝料額のイメージ】

交通事故の被害者が、加害者に対して慰謝料などの賠償金を請求する場合、その金額について、通常は加害者が加入する保険会社と示談交渉を行うことになります。

その際、被害者本人(加入する保険会社の示談代行サービスを含む)が加害者側の保険会社と示談交渉すると、加害者側の保険会社は自賠責の基準や任意保の険基準による低い慰謝料額を提示してくるのが通常です。

これに対し、弁護士が被害者本人に代わって示談交渉や裁判を行う場合は、一般に最も高額な弁護士の基準を用いた主張を行います。
これにより、賠償金の増額が期待できます。

なお、後遺障害等級の認定がなされるまでに入通院した場合の慰謝料は、入通院慰謝料(傷害慰謝料)として別途請求することができます。

(2)後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺症が残ったことにより得られなくなった、将来の利益(収入)をいいます。
例えば、咀嚼機能に障害が残った結果、うまく食事が摂れず体力が低下し、仕事を辞めざる得なくなった場合などに発生します。

逸失利益の金額は、

基礎収入×後遺障害による労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

という計算式で算出します。

「基礎収入」は、原則として事故発生前の収入の金額が採用されます。
「労働能力喪失率」とは、後遺障害により労働能力がどれだけ失われたのか、その割合をいいます。後遺障害等級ごとに目安が定められています。

「ライプニッツ係数」とは、被害者が将来得られたはずの利益を前もって受け取ったことで得られた利益(利息など)を差し引くための数値です。
ライプニッツ係数における就労可能年数(=働くことができる年数)は、原則として67歳までの期間で計算します。
症状固定時点で67歳に近い(または67歳を過ぎている)人は、原則として平均余命の2分の1を就労可能年数とします。

咀嚼の機能障害で認定される可能性がある等級の労働能力喪失率は次のとおりです。

【労働能力喪失率(咀嚼機能障害の場合)】

後遺障害等級労働能力喪失率
1級100%
3級100%
4級92%
6級67%
9級35%
10級27%
12級14%

咀嚼機能障害・嚥下機能障害の場合には業務への支障が間接的なものになりますので、現実の減収の有無や体力低下等も勘案して、妥当な労働能力喪失率を定めることとなります。

咀嚼(そしゃく)機能に障害が残ると診断されたら

後遺障害の等級認定を受けるためには、定期的に通院し「交通事故が原因で咀嚼機能に障害が残った」ことを証明できるようにすることが重要です。
医師や病院には、後遺障害診断書や検査データをきちんと出してもらい、後遺障害等級申請の際に不利にならないようにする必要があります。

その際、弁護士に相談・依頼すれば、後遺障害等級認定に必要な検査や、後遺障害診断書に記載すべき事項についてアドバイスを受けることができます。

また、後遺障害等級が認定された後においても、上でご紹介した「弁護士の基準」による示談交渉により、相手側が提示する後遺症慰謝料などを増額できる可能性があります。

なお、示談交渉などを弁護士に依頼すると、別途弁護士費用がかかります。
もっとも、被害者ご自身もしくは一定のご親族等が自動車(任意)保険に加入している場合は、この弁護士費用を「弁護士費用特約」でまかなえる場合があります。
「弁護士費用特約」とは、弁護士への相談・依頼の費用を一定限度額まで保険会社が補償する仕組みです。この弁護士費用特約を利用すると、実質的に無料で弁護士に相談・依頼できることが多いのです。

ここでポイントなのが、「弁護士費用特約」が利用できるのは被害者ご自身が任意保険に加入している場合だけではない、という点です。
すなわち、

  • 配偶者
  • 同居の親族
  • ご自身が未婚の場合、別居の両親
  • 被害にあった車両の所有者

のいずれかが任意保険に弁護士費用特約を付けていれば、被害者ご自身も弁護士費用特約の利用が可能であることが通常です。
また、弁護士費用特約を使っても、自動車保険の等級が下がる(保険料が上がる)ことはありません。

ご自身が弁護士費用特約を利用できるのか、利用できる条件などを保険会社に確認してみましょう。

【まとめ】交通事故で咀嚼(そしゃく)障害が残ったら、後遺症慰謝料などを請求することができます

この記事のまとめは次のとおりです。

  • 咀嚼障害とは、食べ物を噛み砕く機能に支障が生じることをいいます。
  • 咀嚼の機能により該当する可能性のある後遺障害等級は、1級から12級まで7種類あります。
  • 後遺障害の等級認定を受けるためには、必要な検査を受け、後遺障害診断書に必要事項をもれなく記載してもらうことが重要です。
  • 後遺症慰謝料を算出する基準は3つあります。弁護士に示談交渉を依頼すれば、一般に最も高額な「弁護士の基準」による交渉で賠償額を増額できる可能性があります。

交通事故で咀嚼機能に障害が残ると診断されたら、アディーレ法律事務所にご相談ください。

この記事に関連するよくあるご質問

交通事故によってケガをした被害者は、どのような請求ができるのでしょうか?

交通事故によりケガをした場合には、主に次のような様々な損害につき、賠償金を請求することができます。

治療費、付添看護費、入院雑費等

実際に病院に通った場合にかかる費用などです。

休業損害

会社を休まなくてはならなかった分の給与相当額などです。

入通院慰謝料

ケガをして、病院に入院したり、通院したりしている間に受ける「痛い」「辛い」という精神的苦痛を賠償するものです。

後遺障害による逸失利益

後遺障害が残ってしまった場合に、将来の労働能力に影響を及ぼすものとして、その分の賠償となります。

後遺障害慰謝料

後遺障害が残ってしまったことに対する精神的苦痛を賠償するものです。

なぜ後遺障害の等級認定の申請をする必要があるのですか?

交通事故のケガにより「後遺障害」が残った場合には、後遺症慰謝料を請求することができますが、その請求に「後遺障害の等級が認定されること」が必要だからです。
交通事故などによりケガをした場合、治療しても完全には回復せずに、身体や精神の機能に不完全な状態が残ることがあります。これを「後遺症」といいますが、後遺症が残ったと主張するだけでは後遺症慰謝料は請求できません。

後遺障害の等級認定は自賠責保険の支払基準となるもので、自賠責保険は認定された等級に基づいて後遺障害の逸失利益や慰謝料の賠償額を算定します。
また、自賠責保険に限らず、任意保険会社や裁判所においても、原則として認定された等級に基づいて賠償額を算定します。

このように、後遺障害の等級認定は賠償額に非常に大きな影響をおよぼします。

適切な等級認定がなければ、適切な賠償額を得ることは難しいため、後遺障害の等級認定の申請をする必要があるのです。

後遺障害認定は誰がどのように判断するのですか?

後遺障害の認定の判断は、損害保険料率算出機構(加害者側の保険会社が加盟している場合)や自賠責保険・共済紛争処理機構が行います。
損害保険料率算出機構や自賠責保険・共済紛争処理機構の判断は、基本的に後遺障害診断書などの書面に基づいて審査されます。そのため、診断書の記載が曖昧であったり、必要な検査結果の添付が不足していたりする場合には、適切な認定が受けられない可能性があります。

認定を得るためには、認定の具体的な基準を踏まえたうえで、適切な書面と資料を提出します。これには、医学的にも法律的にも非常に高度で専門的な知識や経験が必要となります。

そのため、交通事故被害の対応実績が豊富で、後遺障害に詳しい弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

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この記事の監修弁護士
南澤 毅吾
弁護士 南澤 毅吾

弁護士は、大学入試・司法試験など型にはまった試験を課せられてきており、保守的な考え方に陥りやすい職業だと私は考えます。依頼者の皆さまの中にも、「弁護士=真面目」、言い換えれば頭が固い、融通が利かないというイメージをお持ちの方がいらっしゃるのではないでしょうか。私はそのようなイメージをぜひ打ち破りたいと思っています。「幅広い視野、冒険心・挑戦心、そして遊び心を持った弁護士でありたい」、「仕事に真摯に取り組むのは当たり前だが、それ以上の付加価値を皆さまにご提供したい」。それが私のモットーです。

  • 本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

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